映画レビュー【女神は二度微笑む】
インド映画の素晴らしさを改めて思い知りました。
踊らないインド映画は個人的にかなり新鮮だったので、感想をレビュー。
<作品情報>
製作年:2012年
監督:スジョイ・ゴーシュ
主演:ヴィディヤー・バーラン
上映時間:123分
製作国:インド
<あらすじ>
2年前に毒ガスによる地下鉄無差別テロ事件で多くの犠牲者を出したインドのコルカタの国際空港に、ロンドンからやってきた美しき妊婦、ヴィディヤが降り立つ。
彼女のコルカタ来訪の目的は、1ヵ月前にコルカタへ出張に行ったきり、行方不明になった夫を探すことだった。しかし、宿泊先にも勤務先にも夫がいたことを証明する記録は一切見つからなく、ヴィディヤは途方に暮れる。
そんな中、夫に瓜二つのミラン・ダムジという人物が浮上、それを知ったインド国家情報局の捜査官カーンが捜査に介入、ヴィディヤへの協力者が何者かに殺害される事件が立て続けに起き、緊迫の事態に発展していく。
少し頼りないが誠実な警察官のラナの協力を得て、夫探しに執念を燃やすヴィディヤだったが、やがて夫の失踪が2年前に起きた無差別テロ事件に関連していることが明らかになっていき、、、。
<感想>*ネタバレあり
これぞどんでん返し!かつて『ユージュアル・サスペクツ』を観てやられたように、今回も見事にこの映画にやられてしまいました。
今まで観てきたインド映画はミステリー、ヒューマンドラマ、ラブロマンス、宗教、社会問題などの様々な複数の要素をギュッと3時間くらいの尺に纏め、最終的には人生における大事なことを提示してくれるものが多かったように思いますが、本作はサスペンス/ミステリー要素1つで勝負する、(日本で観れるインド映画では)かなり珍しい部類となっています。
本作を本格的なミステリーにしているのは、観客にミスリードを促す、巧妙な脚本によるものが大きく、最初のストーリー設定として、前提として、頭で捉えていたものが、最後の最後に綺麗に覆されるのはとても興味深く、惹かれるものがありました。
冒頭、地下鉄のテロシーンから始まり、様々な人物が入れ替わり立ち替わり登場、話の本筋とどう関係するのか、あまり説明されないまま、映画は進んでいきます。それでも緊迫感を最後まで持続させながら、圧巻のクライマックス。
その巧妙な脚本や演出も良かったですが、特に印象に残っている点として2つあります。
まず1点目は、クライマックス直前から度々登場する、ヒンドゥー教の女神である、ドゥルガーの存在。ドゥルガーは、「近づき難い者」を意味し、優美で華やかな見た目とは裏腹に、内面に激しい気性を併せ持つ、戦いの女神として位置づけられています。
特にクライマックスでは、主人公ヴィディヤの「美しい外見」、そして「綿密に計算された戦略で夫の仇を討つ、強さ」が優美な戦いの女神、ドゥルガーと重ね合わせられていることが印象的でした。こういうメタファーって、めちゃめちゃ気が利いててオシャレです。
2点目は見事、最愛の夫の仇を討ったヴィディヤが涙するシーン。
強く、美しく、気丈であった彼女が涙する姿が印象的でした。今まで明るく振舞っていたのは"夫の仇を討つ"という至上命題があったからに過ぎないと言わんばかりでした。
そしてその命題を見事に果たした一方、いやむしろ命題を果たしてしまったことによって、夫はもう戻ってくることはない、と改めて再認識してしまい、新たな別の絶望に暮れているようにも見えました。復讐からは何も生まれないということでしょうか。
低予算(120万USD)で製作されたながらも、非常に繊細で緻密な、良作ミステリー/サスペンスでした。観る価値は十分にあると思います。
<関連作品>
ユージュアル・サスペクツ(1995/アメリカ)