Buenviaje

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映画レビュー【ナイトクローラー】

歪んだ資本主義が生み出したモンスターから学ぶ、「仕事で成功する秘訣」と「報道の在り方」とは?

 

DVDを買ってから、しばらく放置していた『ナイトクローラー』を久しぶりに観賞。

社会人になってから観ると、現代社会を生き抜く上でのヒントが数多く隠されていることに気づいた。特に社会人には是非観て欲しい。

 

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<作品情報>

日本公開日:2015年8月22日

監督:ダン・ギルロイ

主演:ジェイク・ギレンホール

原題:Nightcrawler

上映時間:117分

製作国:アメリ

 

<予告編>


映画『ナイトクローラー』予告編

 

<あらすじ>

“ナイトクローラー”と呼ばれる報道(スクープ)パパラッチとなった男は、視聴率がとれる刺激的な映像を手に入れるため、行動をエスカレートさせていく―。

 眠らないロサンゼルスの街で、闇にまぎれて金網を盗もうとしている男(ジェイク・ギレンホール)がいる。呼び止める警備員を殴り倒した男は、戦利品を車に載せて工場に売りつける。そこで男は「僕は勤勉で志が高い人間だ」と自信満々で自分を売り込み、「コソ泥は雇わない」と断られても笑顔で去って行く。自分をルーと呼ばせる、この不気味な男の名は、ルイス・ブルーム。友達も家族もなく、ネットとテレビと共に孤独に暮らしている。
 帰り道、交通事故現場を通りかかったルイスは、事件や事故報道のスクープを専門にしている映像パパラッチ、通称〈ナイトクローラー〉と遭遇する。悲惨な映像がテレビ局に売れると聞いたルイスは、盗んだ自転車と交換にビデオカメラと無線傍受器を手に入れる。場面写真
 その夜から警察無線を盗み聞き、車で現場に急行するようになったルイスは、カージャックの被害者の撮影に成功する。しかも先に到着していたナイトクローラーより接近した生々しい映像だ。 あるテレビ局に早速映像を持ち込むと、女性ディレクターのニーナ(レネ・ルッソ)が映像を買い取ってくれた。そこで「視聴者が求めているのは、刺激的な画。さらに望ましいのは被害者が郊外に住む白人の富裕層で、犯人はマイノリティや貧困層。」とアドバイスをもらう。ルイスは、何か撮ったら一番に彼女に連絡すると約束するのだった。
 本格的に事業を始める決意をしたルイスはアシスタントを募集し、面接に来た住所不定で何の特技もないリック(リズ・アーメッド)を僅かな賃金で雇う。助手席で進路を指示する仕事さえ満足にできないリックを冷酷に叱咤するルイス。 
場面写真 ある夜、住宅街の発砲事件に駆けつけるが、負傷者もなくハデな映像は撮れそうになかった。ルイスは被害宅の裏に周りこみ、関係者たちの隙をついてコッソリ中に忍び込み、冷蔵庫の生々しい銃弾跡の横に家族の写真を置いて撮影する。映像を持ち込まれたニーナは「最高の素材よ!」と絶賛、編集担当の「不法侵入だ」という制止を振り切って放映する。
 それからもセンセーショナルなスクープ映像を次々にモノにしたルイスは、車はスピードの出る赤い高級車に、機材も最新型に買い替える。壮絶な横転事故の無線を傍受した時も、その車で誰よりも早く現場に駆け付け、絶好のアングルのために、ルイスは血だらけの遺体を車の下から引きずり出すという暴挙に出る。
ネットで学んだビジネスノウハウや格言を狂信し、成功だけに邁進するルイスに、怖いものなど何もなかった。
 そんな絶頂への階段を駆け上がるルイスに、思わぬ落とし穴が待っていた。リックのミスで飛行機墜落事故という最大のスクープを逃してしまったのだ。過激な視聴率争いからニーナにも激しく罵られ、進退窮まったルイスは遂に究極の一線を超えるのだが──。

ナイトクローラー公式サイトより

http://nightcrawler.gaga.ne.jp/

 

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<感想>

冒頭に書いたように、この映画を観て考えたことは、「仕事で成功するための秘訣」と「報道の在り方」についての2つである。

 

①仕事で成功する秘訣とは?

これを考えるにあたり、キーとなるのは、ジェイク演じるルイス・ブルームの言動だ。

 

▼ルイス・ブルームというキャラクターについて

この男を一言で表すとすれば、「資本主義が生み出したモンスター」、「自尊心の塊」だろうか。

ルイス(ルー)は、定職につくこともできず、マンホールの蓋や金網を盗んで売ることで生計を立てている。言葉は悪いが、うだつの上がらない生活を送っているのだ。

とはいえ、決して現状に諦めているかといえば、そうではない。家は常に清潔だし、シャツにアイロンをかけ、しっかりとした身なりをしている。また、各所で自分を雇ってくれるよう、自分をアピールすることも忘れない。

「僕は勤勉で、覚えがはやく、努力を惜しみません。目的のためには手段を問いません。」なんて、自信満々に自分を売り込んだりしている。普通、コソ泥をやっていたら、こんなこと言えないですよね。ここでも彼は、自尊心がかなり高いことが伺えます。

お気付きの通り、彼は俗にいうサイコパスです。

 

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▼資本主義とルーの関係性

報道パパラッチとして事業を拡大していきたいと考えたルーは、助手を1人雇う。

彼の名はリック。彼もまた高校卒業後、職を転々とし、お金に困り、ルーの求人に応募してきたのだった。リックは、正になるべくして今の生活を送っているという感じ。言葉は悪いが、気が弱い上に頭は悪く、学歴もなく、何も考えないで生きてきたような男だ。(彼もまた、資本主義社会の被害者とも言える)

ではなぜ、ルーはこんな無能そうに見えるリックを雇ったのか?答えは簡単だ。

それは彼が今まで社会から受けてきた資本主義による搾取を、今度はリックに対して自分が行うことができるからではないだろうか。

先ほど書いたように、彼は失業率が高まる社会で、成功できずにいた。彼自身は、向上心があり、他とは違う存在であるにも関わらず、「社会=弱者から巻き上げる資本主義社会」が悪いから成功できずにいると信じていたのだ。

こんな社会から搾取されたのだから、自分が搾取することに何の問題もない。同じ枠組みで自分が搾取する側に回るためには、気が弱く、無能なリックを助手として雇うことは、うってつけの手段だったのだろう。

つまり、「僕は能力があって、いつか必ず成功できる人間なのに、こんな優秀な自分を相手にもしてくれない、チャンスも与えてくれないこんな社会が悪いんだ!あ、自分より下のやつから搾取すればよいのか!現代社会には散々やられてきたし、自分が搾取する側になっても何の問題もないよね!」という感じ。

正に彼は、「資本主義社会が生み出したモンスター」なのである。

 

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▼ルーの言葉

こんなサイコパスなルーではあるが、当たり前のことすぎて我々が普段気づけない、あるいは実行できていない、仕事に関する重要なことを言っている。

 

・「提案だけで終わるより、目的を忘れないことが肝心だ」

・「仕事を始める前には、計画が必要なことや、仕事内容だけではなく、動機も大事だと学んだ」

・「行動に移る前に自問しろ」

・「”自分は何をするのが好きなのか"、"長所と短所をリストにしろ”、"得意なことは?苦手なことは?"考えたよ。長所を伸ばすのか?短所を克服するのか?」

 

当たり前ですよね。でも、当たり前過ぎて忘れていたこともありませんか?ルーの言葉は至極当然ですが、改めて自分が生きていく上で、仕事をする上で基本となることを教えてくれます。

 

他にもこんなことを言っています。

・「答えるのに問題点を挙げるな、解決案を出せ!」

・「僕は学歴こそないけど、その気なら学べる」

 

ちなみに、サラリーマン経験がない彼はこれらをインターネット講座を通じて学びました。彼の貪欲さ、頭の良さ、努力を厭わない性格が伝わってきますね。

 

これ以外にも、実際に放送されているニュースのトピックを分析するシーンや、「複雑な問題に簡潔な回答を出す能力」という言葉が印象的です。

 

どんな会社にも、「皆が空気を読んで、あえて指摘しないようなことにもズバズバ言うタイプの人間」とか、「言ってることは核心をついているけど、言い方に問題があるタイプの人間」っていますよね。

くそ面倒臭いし反面教師にしたい存在だけど、こういう「サイコパス気味の人間」がいないと社会とか会社って回らないし、決断力や推進力に欠けるんだろうなって最近思ってます。

ルーの言葉にもある通り、自分の得意なことや苦手なことを改めて見直してみたいと思います。

 

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②報道の在り方とは?

これは、本作のメインテーマの一つでもあるでしょう。

バラエティー番組に限らず、ニュースを含む報道も「リアル」ではなく、「リアルをもとに、何らかの意図を以って作られたもの」であることが、何度も強調されます。

実際、ルーの映像を買っていた報道番組のプロデューサーのニーナも以下のように言っています。

ダウンタウンでの犯罪は誰も興味を持たない。私の番組では郊外の閑静な住宅街に潜む、凶悪な犯罪を報道したいの。それも被害者が裕福な白人で、加害者がヒスパニックなどのマイノリティであれば最高だわ。飛行機の墜落事故などの悲惨なものもいいわ。」

ルーもそれに対し、「血が映ってればもっといいのか?」なんて返してます。笑

完全にイカれてますね。

 

また、ルーは特ダネのために警察無線を盗聴し、警察よりも早く現場に出向いたり、不法侵入をして撮影を行ったり、遺体の位置をずらして、より視聴者の興味を引くような構図にしたり・・・法律ガン無視でやりたい放題しています。

そしてどうやって撮られた映像なのか、その背景やソースを明らかにせぬまま、それをあたかもリアルであるかのように報道するテレビ局・・・

実際、アメリカの報道パパラッチがどこまでのことをしているのかは知りませんが、報道のモラルやメディアリテラシーに関して、色々と考えさせられるものがあります。

 

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話は少し逸れますが、これはテレビ局側だけではなく、視聴者側にも問題があると思います。〇〇時間テレビや〇〇〇リング、〇〇〇ハウスなど・・・

これらの番組が好きなら好きでそれでいいんですが、「制作側の意図」を理解しないまま、のめり込んでいる人が多いような気がするんですよね。

これらを「作られたもの」ではなく、「リアルそのもの」だと勘違いして心酔している視聴者ってめちゃめちゃ気持ち悪くないですか?サイコパスじゃんて思います。笑

実際、僕も「〇〇のり」とか好きですし、映画もドキュメンタリーもニュースも見るけど、どこまでが事実でどういう意図をもって作られたのか常に意識するようにしています。

 

最後に、ルイス・ブルームという男は、他人の気持ちが分からないサイコパスです。

他人の気持ちが分からないが、頭が良く、貪欲で、努力を惜しまない。

そんな資本主義が生み出したモンスターからも、現代社会を生き抜くためのヒントをもらったり、仕事をする上で大切なことや報道の在り方について深く考えさせられます。

ここには書ききれないくらい、ルーのサイコパスっぷりが発揮されていて、目が離せないシーンが山ほどあります。エンターテインメントとしてもかなり面白いので、気になった方は是非観てみてください!

 

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